ICOM京都大会の意義


2019年9月、ICOM(世界博物館会議)の世界大会が京都の国際会議場、及びイベントホールで開催された。9月1日から6日までの一週間、世界120カ国から5000人近い博物館関係者が京都に集まった。今ICOMの会員は4万人を超えているが、その1割以上が集まったことになる。3年に一度開かれるこの世界大会で、かつてこれだけの人が集まったのは初めてのことで、それほどに京都大会に期待する人が多かったのはもちろんであるが、京都という都市の魅力も人々の関心を大いに引きつけたためであろう。この世界大会の組織委員長を勤めた立場からこの大会の意義を振り返ってみたい。



ICOMとは

ICOMが創立されたのは第二次世界大戦終結の翌年、1946年のことである。初代ICOM会長となるアメリカのChauncey Hamlin、第二代会長となるフランスのGeorges Sallesらの尽力によって組織作りがスタートした。大戦によって分断された世界を、文化の理解を通してもう一度世界が手を繋ごう、という強い思いのもとに設立されたのである。


それから70年以上が経過し、世界は今再び地球規模で大きな危機を迎えつつある。かつては、人々のあらゆる層に娯楽と教養を、そして文化的意識の向上を、という役割を博物館は担ってきた。しかし、今や博物館はまた新たな役割を担う必要に迫られている。 


地球環境の危機が叫ばれている中、持続可能な未来のために博物館は何ができるのか。グローバル化が進めば進むほど希薄になる可能性のある文化の多様性を守るために博物館は何ができるのか。あらゆる人種、性、経済的・社会的な差別のない教育の機会均等を実現するために博物館は何ができるのか。こうした、今、世界が直面している様々な問題や課題解決のためには、そして世界の平和と幸福の持続性を追求するためには、人々が今一度手を繋ぎ、英知を結集する以外に方法はないわけである。3年に一度開かれるICOM世界大会はこうした時代の大きな変化に対応した博物館の役割を再評価し、検討し直す絶好の機会なのである。

ICOM京都大会

2015年6月に、パリで開催されたICOM諮問会議での投票で、京都大会の開催が決定された。大会テーマは「文化をつなぐミュージアム - 伝統を未来へ」。


もう一度手を繋ごう、世界が繋がろう。そこでは国や人種の境界もない、過去現在未来の時間も飛び越えて、あらゆる可能性を大胆に模索していくことが期待される場、その公共空間、それこそが文化的結節点(Cultural Hubs)としての博物館である、という思いをもって本大会の総合テーマとしたわけである。このテーマに沿って、あるいはこのテーマを視野に入れて、30に余る博物館、美術館が抱える様々な課題が議論された。保存と修復、マネジメント、マーケティングと広報、教育と文化活動、博物館と科学技術、都市博物館・地域博物館の抱える問題、博物館における収集・展示の問題、博物館におけるセキュリティー、防災の問題、等々多岐にわたった。


大会は日本の博物館界にとっても大変大きな意義があったと思われる。研究し、展示し、公開する施設としての博物館から、今の社会や世界を見つめ、大きく変化していく社会に対し博物館がいかに貢献できるかを世界規模で、いや、地球規模で考えざるを得ない時代になっていることが痛感される。その現状を十分に認識してこそ博物館自体の持続可能性の課題にも取り組むことが可能となるのであろうが、今世界の博物館が何を考え、何を悩んでいるか、その問題意識を共有することが出来たことは大きな成果であったと思われる。


ところで、ICOMの世界大会を開催する意義はもう一つある。それは120カ国から5000人近い博物館関係者が集まるのであるが、彼ら彼女らは矢張り文化に対して高いアンテナを張っている人たちである。これを機会に日本の文化を直接体験してもらうことも、日本の文化発信という点から考えて極めて有効で、この機会を逃すべきではない。本体の会議においても、休憩時間においても参加者が気持ちよく時を過ごせるよう気配りをする必要がある。会議後の夜のもてなし、また、京都を中心とした町並みや博物館、美術館、伝統産業、社寺や名所旧跡めぐり等50に近いコースを設けての案内、本会議場に隣接したイベントホールでは100に余るブースを設けて様々な伝統工芸や最新のテクノロジーを紹介し日本文化の伝統と最新技術の両面を楽しんで見てもらう。こうしたいわばおもてなしの部分が実は会議本体の運営と同時に非常に大切なのである。


ICOM京都2019の世界大会はこうした車の両輪がうまく稼働することによって大成功を収めた。今のコロナ禍の現状を考えると、一つの会場に5000人もの人々が集まる会議が出来たのは奇跡のようにも思える。そして特に片方の車輪、即ちおもてなしの部分を支えて頂けたのは100に余る様々な企業の財政的支援、ボランティアの方々の多大の助力があったればこそである。改めて感謝の気持ちを表する次第である。

 

Writer:佐々木丞平 京都国立博物館名誉館長・京都大学名誉教授

閲覧数:69回0件のコメント

関連記事

すべて表示