貿易立国から投資立国に変貌した日本経済

円安が進展しても輸出が増えない日本

2021年初以来、円安が進展している。昨年初には1ドル=105円であった円・ドルレートは、この1年間で10円程度円安となっている。米ドル、ユーロなど各通貨の為替レートを加重平均し、物価の変動を加味した実質実効為替レートでみると1970年代以来の大幅な円安となっている(図表1)。円の価値はこの50年間で最低水準に落ち込んでいる。


【図表1】実効為替レート

出所:日本銀行「経済・物価情勢の展望(2022年1月)」

しかし、こうした大幅な円安にもかかわらず、日本の輸出の伸びは鈍い。世界貿易量に占める日本の輸出シェアをみると、2013年以降、4%台後半で横ばい圏内の動きとなっている(図表2)。円安によって価格競争力が押し上げられているが、日本の輸出が大きく増加する兆しは見られていない。


【図表2】日本の輸出シェア

出所:日本銀行「経済・物価情勢の展望(2022年1月)」

経常収支は、直接投資の収益増加で大幅な黒字が続く


一方、日本の対外経常収支バランスをみると、最近では、年20兆円程度の大幅な黒字が続いている。


【図表3】経常収支

出所:日本銀行「経済・物価情勢の展望 (2022 年1月)」

図表3の青い色で示される「貿易収支」は、小幅な黒字と赤字を繰り返しており、均してみれば、ほぼ収支トントンである。経常収支の大幅な黒字の殆どを占めているのは、白い色で示される「第1次所得収支」の黒字、すなわち、直接投資や証券投資の収益(配当金、受取利息、売買差益)の黒字である。かつては、生命保険会社など日本の機関投資家が保有する米国債や株式などから得られる収益が大きなウエイトを占めていたが、近年では、日本企業の海外進出に伴い設立された海外現地法人の収益が、最大の寄与を占めている。


海外進出当初は、現地法人の黒字化に苦労を重ねたものの、近年では、現地法人の経営は軌道に乗ってきており、直接投資の収益率(利益/投資残高)は、年7~8%と諸外国と比較しても遜色ない高い水準である。直接投資の収益は、日本企業の高収益や株価上昇を支える原動力となっている。



「貿易立国」から「投資立国」に変貌した日本経済


日本の対外純資産は、長年の経常黒字蓄積の結果、2020年末で357兆円と主要国で最大となっている。


【図表4】対外純資産の国際比較(2020年末)

出所: 日本銀行 「 2020 年の国際収支統計および本邦対外 資産負債残高」

そのうち、直接投資(ネット)は166兆円(46%)と最大のシェアを占める。日本とほぼ同規模の対外純資産を持つ中国は、対外純資産の殆どを政府の外貨準備(米国債など利回りが低い安全資産)としているのと比べると、日本は、収益率の高い直接投資のシェアが高いことから投資効率は高い。日本経済が、輸出で稼ぐ「貿易立国」から海外への直接投資で稼ぐ「投資立国」へと変貌していることを示している。


「投資立国」への変貌が為替レートに与えるインプリケーション


日本経済の「貿易立国」から「投資立国」への変貌は、最近の為替円安に対してどのようなインプリケーションを持つのか、整理してみよう。


【図表5】直接投資収益

出所: 日本銀行 「 2020 年の国際収支統計および本邦対外 資産負債残高」

第1に、海外生産比率が高まったことで、円安になっても輸出が増加しにくくなってい る。このため、円安の進展⇒貿易黒字の拡大⇒外貨建て貿易代金の円転による円買い需要の増加⇒円高圧力の増加という為替の自動調整メカニズムが弱まっている。実際、2013年以降の円安局面でも輸出は増加しておらず、このメカニズムはあまり作動していない。


第2に、海外直接投資の収益は、日本の本社に送金されずにそのまま現地法人で内部留保され、現地で設備投資などに充当される比率が高まっている(図表5:「再投資収益」がそれに該当)。これは、日本よりも中国や東南アジアなど海外での設備投資ニーズが高いことに加え、日本の本社へ送金(配当)すると、追加の法人税負担が発生するためである。このため、多くの企業で、日本への送金を抑制する傾向にあることから、日本への送金の増加⇒外貨建て利益の円転による円買い需要の増加というメカニズムもあまり作動していない。


以上のことを踏まえると、日本経済の「貿易立国」から「投資立国」への変貌に伴って、為替円安を打ち消す円高圧力が、これまでと比較して生じにくくなっている可能性がある点には留意が必要だろう。

 

Writer:肥後 雅博 東京大学大学院経済学研究科教授・前日本銀行京都支店長

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