好調な製造業:財への需要シフトは続くのか

好調な製造業と不振のサービス業:景気の二面性は拡大

最近の日本経済をみると、コロナ感染拡大による外出自粛・時短営業要請により飲食・宿泊を中心とするサービス業の不振が続いている一方で、海外経済の順調な回復を受けて製造業の好調さが目立っており、景気の二面性は拡大している。京都においても、厳しい状況が続くホテルや飲食店などの観光関連産業と増収増益の大手製造業とでは、はっきりと明暗が分かれている。こうした製造業の好景気は、今後も続くのだろうか。

製造業の好調さの背景


実際、世界経済の回復を受けて、財の需要は急速に拡大している。世界全体の貿易量をみても、直近(2021 年 4 月)は、既にコロナ禍前の水準を大きく上回っている(図表1)。

財別では、世界的なデジタル関連需要の拡大を受けて、スマートフォン、パソコン、データセンター、自動車向けの半導体需要が増加しているほか、設備投資関連でも、半導体製造装置や工作機械受注が堅調に推移している。今後についても、コロナ禍からの回復に伴い製造業の設備投資の伸びが見込まれるほか、5Gデバイスなど新しい技術の本格普及やグリーン化(EVの普及)の進展といった構造的な要因があることから、当面しっかりとした動きを続けると予測するリサーチ機関やエコノミストが多い。業界団体(WSTS)の「世界の半導体出荷見通し」も、かなり強めの見通しとなっている(図表2)。




財からサービスへの需要巻き戻しのリスク しかし、こうした情報関連を中心とした財への需要シフトは一時的である可能性がある。この点には注意が必要だ。パソコン、データセンターの需要増は、テレワークや巣ごもりなどコロナ禍特有のニーズ拡大が影響しているほか、自動車や家電製品の販売増加は、外出自粛から飲食・旅行サービスへの支出を断念せざるを得ない家計が、余ったお金を振り向けた結果である可能性が少なくない。


2000 年代には高い伸びを示していた世界貿易量は、2010 年代に入り伸びが低下し、世界の実質成長率を下回ることが多くなった(図表3)。この背景として、①製造業の国際分業(グローバル・バリューチェーン)の進展が一服し、製造業の設備投資が鈍化したこと、②国際分業拡大の原動力であった中国において中間財・部品の内製化が進んだことが指摘されている。さらに、豊かになった中国などの新興国で、財からサービスへの需要シフト、とりわけ海外旅行への需要シフトが進んだことも影響している。2010年代は、財への需要が鈍化した一方で、観光需要は拡大し、国際観光客数は世界の実質成長率を上回る高い伸びとなっていた(図表4)。自動車や家電製品へのニーズを充足した消費者が見知らぬ海外へ旅行することに新たな「楽しみ」を見出したわけであり、日本へのインバウンド観光客も急激に拡大していた。



世界の多くの人々が、現在、我慢を余儀なくされているが、コロナの感染が収まれば、再び、海外旅行に多くのお金を投じるようになる可能性は高い。一方で、中国をはじめ多くの国の経済成長率は低下傾向にあり、家計の所得の伸びは以前より鈍化している。この点を踏まえると、観光旅行(インバウンド観光)需要が本格的に回復する際には、現在好調な5Gデバイスや電気自動車(EV)への支出が抑制される可能性があるのではないか。


 

Writer:肥後 雅博 東京大学大学院経済学研究科教授・前日本銀行京都支店長 参考文献

国土交通省「観光白書(令和2年版)」2020年… 図表4

内閣府「月例経済報告等に関する関係閣僚会議資料」2021年6月24日… 図表2

日本銀行「経済・物価情勢の展望(2021年4月、2021年7月)」… 図表1と図表3


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