コロナ禍でも、なぜ税収は増加を続けるのか?


2020年度の税収は「過去最高」に


7月初めに財務省から公表された「税収実績」によると、2020年度の国の税収は60.8兆円と前年度の58.4兆円を2.4兆円上回り、過去最高になった(図表1)。コロナ感染により、2020年の実質成長率が▲4.6%とリーマン・ショック(2009年:▲5.7%)以来の大幅なマイナス成長になったこと、税収は経済規模を表すGDPに比例して変動するのが通例であることを考えると、税収が大きく落ち込んでもおかしくない。コロナ禍で税収が増加を続けているのは、不可解な現象にみえる。


実際、景気が大きく落ち込んだリーマン・ショック時には、税収は、2007年度の51.0兆円が2009年度には38.7兆円へと▲12.3兆円減少していた。


コロナ対応に伴う財政支出の増加から、財政赤字は大幅に拡大しているが、政府においても財政に対する危機感はさほど高まっていない。税収が堅調に推移していることも、危機感が高まらない一つの要因となっている。


【図表1】国(一般会計)税収

 単位:兆円

景気の大きな影響を受ける法人税収も増加


コロナ禍のもとでの異例の税収増加には、2019年秋実施の消費税率引き上げによる増収効果が寄与しているのは確かである。実際、消費税収は2020年度に+2.6兆円増加している。


もっとも、景気変動の大きな影響を受ける法人税をみると、2019年度の10.8兆円から2020年度には11.2兆円と0.4兆円も増加している(図表2)。リーマン・ショック時には、法人税収が、2007年度の14.7兆円が2009年度には6.4兆円へと▲8.3兆円も大きく減少し、国の税収全体の減少幅(▲12.3兆円)の7割を占めるなど、税収落ち込みの主因となっていたのとは対照的である。


【図表2】法人税収

単位:兆円

なぜ法人税収は落ち込まないのか


それでは、コロナ禍における景気の大幅な後退のもとで、なぜ法人税収は落ち込まないのであろうか。それには、いくつかの要因が考えられる。


その一つは、コロナ禍における企業収益の落ち込み幅は、リーマン・ショック時よりも小幅にとどまっていることである。企業全体の経常利益の減少率は、リーマン・ショック時の▲40%に対し、コロナ禍では▲25%となっている(図表3)。政府による雇用調整助成金や持続化給付金などの収益支援や無利子融資の拡充などが収益の底上げに寄与している。


【図表3】経常利益変化率:リーマン・ショック時とコロナ禍との比較(%)

(注)金融業・保険業を除く。大企業は資本金10億円以上、中小企業は1億円未満。 出所:財務省「法人企業統計調査(年次別調査)」 第2に、リーマン・ショック時には、中小企業よりも大企業の経常利益の減少率が大幅となっていたが、コロナ禍では、逆に大企業よりも中小企業の減少率が大きくなっている点である。リーマン・ショックが輸出の大幅減少による大企業製造業中心の不況であったのに対し、コロナ禍では、外出自粛に伴う飲食・宿泊等の中小サービス業へのダメージが極めて大きいことを反映している。法人税収に占めるシェアは、大企業が中小企業を上回ることから、大企業の打撃が大きかったリーマン・ショック時と比べ、コロナ禍における法人税収に与えるマイナスのインパクトは小さくなると考えられる。

業種別にみると「勝ち組」と「負け組」が明瞭に

しかし、上記2つの要因だけでは、リーマン・ショック時に半減した法人税収が、コロナ禍では横ばいを維持している点を説明するのは困難である。次に述べる3つ目の要因である「業種や企業ごとの収益のばらつきが極めて大きい」点が、重要であると考えられる。


図表4は、「法人企業統計調査」の業種別データから、2020年度において増益・減益となっている主な業種をみたものである。それによると、大企業・中小企業とも、各業種が一律に減益となっているわけではなく、大幅な増益になっている業種も少なからず存在している。大企業では、「巣ごもり」による通信需要の増加から情報通信や電気機械が増益になっているほか、業務用機械など製造業の各業種で輸出の増加から収益が改善している。中小企業においても、オフィス賃貸やマンション分譲が好調なことから不動産や建設の利益が大きく拡大している。さらに専門・技術サービスにおいてもPCR検査など検査ニーズの拡大等から増益となっている。


【図表4 】2020年度の主な増益・減益業種

(経常利益 単位:兆円・%、▲は経常損失) 出所:財務省「法人企業統計調査(年次別調査)」 どうしても、コロナ禍によるダメージが大きい業種(大企業では、鉄道・バス<陸運>、航空<その他の運輸業>、娯楽、中小企業では飲食サービス、宿泊、タクシー・貸切バス<陸運>)に目を奪われがちである。しかし、コロナ禍は、外出自粛の長期化に伴い「負け組」企業に大きなダメージを与えている一方で、コロナ禍をビジネスチャンスに替えて需要を伸ばす「勝ち組」企業を着実に生みだしている。この結果、赤字に転落した企業の法人税はゼロに落ち込む一方で、「勝ち組」企業の利益拡大が法人税収を押し上げている。


日本経済の今後を展望するうえでは、コロナ禍における業種・企業ごとで明確化しつつある「明」と「暗」をしっかりと認識しておいた方がよいと思われる。


 

Writer:肥後 雅博 東京大学大学院経済学研究科教授・前日本銀行京都支店長

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