重荷を負うて遠き道を行くのか:日本経済

日本経済の低成長は家計消費の低迷が主因

  「人の一生は重荷を負うて遠き道を行くがごとし」は、江戸幕府を創設した徳川家康の遺訓とされるものだが、日本経済の現状もまさにそのような状況にあると思われる。岸田政権の肝いりの会議である「新しい資本主義実現会議」には、日本の経済の実情を赤裸々に示す興味深い資料が内閣官房の事務局から提出されているので、本日はその一部を紹介したいと思う。 【図表1】実質GDP成長率における消費の寄与度の国際比較


図表1は、実質成長率に占める需要項目別の寄与度をG7各国で比較したものである。それによると、2010~2019年の10年間で日本の成長率が年平均1.0%とG7中6番目の低さとなっている。日本の成長率が米国やドイツに及ばないのは予想されるところだが、EUから離脱した英国、これといった成長の牽引役のないフランスをも下回っているのは意外感がある。注目すべきは、赤色の家計消費支出が占める寄与度の違いである。日本はわずか0.3%と、米国の1.7%と比べて5分の1以下にとどまっている。日本の低成長の根底には、家計の消費の鈍さがあるとの見方が専門家に広がっているが、この資料は日本の家計の支出スタンスがいかに弱いかをよく示していると思われる。 家計消費の低迷には可処分所得の低調な伸びが影響 こうした家計消費の低迷には、当然のことながら、家計の可処分所得の伸びが低いことが影響している。2000年から2018年までの日本の可処分所得の増加率は13%と、米国の42%、英国34%、ドイツ29%、フランス22%を大きく下回っている。可処分所得の殆どを占めるのは賃金(雇用者報酬)であるので、前回のコラムで述べたように日本の賃金が上がらないことがその大きな要因である。ただ、原因はそれだけではない。

【図表2】家計の可処分所得の増減要因

図表2は、家計の可処分所得の増減要因を示したものである。それによると、2010年から2021年までの11年間で、給料である雇用者報酬は32兆円、利息・配当などの財産所得が2兆円、年金などの社会保障給付が4兆円、各々増加したが、所得税・住民税の税金負担が7兆円、社会保険料の負担(家計のほか、雇用主の負担を含む)が16兆円増加したことから、両者を差し引きした家計の可処分所得は14兆円の増加と、雇用者報酬の増加額の4割にとどまっている。税金の増加は、雇用者報酬の増加分の2割であるので、所得税と住民税の税率を考えるとこの程度はやむを得ないが、驚くべきは社会保険料の増加額が大きいことであり、雇用者報酬の増加分の5割に達している。この図表に含まれていないが、この間の消費税率引き上げ(5→10%)による負担増が13兆円に達するのを考慮すると、家計の可処分所得は、実質的には殆ど増加していないともいえる。これでは、家計消費は増えようもないのは確かである。 高齢化という「重荷」を負うて遠き道を行く日本経済の展望 社会保険料の増加、さらに消費税の増税が、高齢化の進展に伴う社会保障費の増加に対応するものであったことを考えると、日本経済にとって、高齢化が大変な「重荷」となっていることが実感できる。政府は、経済界に対して「3%の賃金引き上げ」を求めているが、こうした「重荷」を背負いながら日本経済が前進していくためには、これぐらいの力強い賃上げが必要である。何とか企業には思い切った賃上げをしてほしいというのが、政府の本音であることがこの資料からよく分かる。まさに「遠き道を行くがごとし」である。 【図表3】社会保険料負担の増加額の内訳(2010年度⇒2019年度)

出所:内閣府「国民経済計算・年次推計」

この点、多少であるが、明るい兆しがないわけでない。図表3は、2010年度から2019年度までの9年間の社会保険料負担の増加を、年金、医療、介護に分けてみたものである。この間の社会保険料の増加額(17兆円強)のうち、年金が6割の10兆円、医療が3割の5兆円強、介護が1割の2兆円を占めており、年金保険料の負担増が極めて大きかったことが分かる。 この間の年金保険料の負担増加が大きかった背景には、2004年度から2018年度の15年間にわたり、少子高齢化に伴う年金財政の持続性の確保のため、年金の保険料率が毎年引き上げられてきたことが指摘できる。しかし、2018年度で年金保険料率の引き上げが終了したことから、年金については、今後の負担増加は大幅に抑制される見込みである。

もちろん、団塊の世代が75歳以上の後期高齢者になっていくことから、今後は医療・介護の保険料負担の増加が懸念されるところである。「遠き道を行く」日本経済が何とか進んでいけるかどうかは、経済成長率の底上げや企業の賃上げに加えて、医療・介護を中心とする社会保障改革の帰趨にかかっているということができるだろう。

 

Writer:肥後 雅博 東京大学大学院経済学研究科教授・前日本銀行京都支店長

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