日本経済の復活には何が必要なのか?

日本経済の復活には経済成長が必要なのは確かだが…

新年恒例ではあるが、日本経済の復活に何が必要か、新聞や雑誌で様々な議論がなされている。有識者の多くは、成長率が高まらないなかでは、分配重視といっても賃金上昇には限りがある。国民の所得を継続的に増やすには、主要国で最低レベルにある日本の労働生産性を高める「成長戦略」が不可欠と指摘している。成長分野である「デジタル」「DX」「EV」「脱炭素化」に対応した企業の事業戦略と政府の規制緩和や政策誘導が必要との流れである。個人的には、こうした議論の展開は単純すぎるのではないかと感じている。経済成長に最も大切なものは、企業の事業戦略でも設備投資でもなく、何よりも「人」である。経済は人が成長させるものだからである。日本経済が成長していけるかどうかは、企業で働く人たちのやる気と能力に左右されていると思われる。以下、経済産業省が開催する研究会「未来人材会議」の資料(2021年12月)から、その点をみていきたいと思う。 熱意・やる気が失われ、不満がうっ積する日本のビジネスパーソン

図表1は、従業員がエンゲージメント―成長に向けた士気や熱意―をどの程度持っているかを国際比較した調査である。日本では、「士気や熱意が高い」と答えたビジネスパーソンがわずか5%しか存在しないことは衝撃的である。米国人が前向きな答えをする一方で、東アジア人は控えめな回答をしがちとのバイアスがあるが、東アジア諸国と比較しても、日本の低さは目立っている。このアンケート調査を信じると、日本の従業員の95%は、「やる気がない」か「周囲に不満をまき散らしている」存在だということになる。 【 図表1】従業員のエンゲージメント(士気・熱意の高さ)の国際比較

昨年10月、品川駅で掲出された「今日の仕事は楽しみですか」とのデジタルサイネージ広告が、SNSで炎上して批判されて謝罪に追い込まれる事態となったことを覚えておられる方も多いと思う。この批判をみると、日本人の多くが「仕事は苦痛」と感じていることを示している。日本人の仕事の満足度も時を追うごとに低下してきている。低成長が長期化し、仕事で大きな成果が出にくいことも大きな要因であるが、長きに亘る賃金低迷もあって、仕事での頑張りが報われないという給与への不満の高まりも影響しているとみられる。図表2は、限られたサンプルの調査ではあるが、日本の雇用者が米国や欧州と比べて給与に対して大きな不満を持っていることを示している。

どんな事業戦略を実行するにせよ、仕事のやる気が高まり、従業員の満足度が向上しなければ、生産性の向上は見込めないと考えられる。その意味で、目先やや無理をしてでも従業員の給与を引き上げて、満足度を改善するというのも一つの考え方であると思える。 【図表2】雇用者における現在の給与への満足度の国際比較

人材投資の不足:企業側・雇用者側双方の消極スタンス

もう一つ心配な種は、企業の生産性向上に不可欠である人材投資(研修などによる人的資本形成)に対して、企業側も雇用者側も、極めて消極的なスタンスであることである。


図表3は、雇用者の人材投資について、企業サイド、雇用者サイドの取り組みを示している。左図は、企業が従業員の人材投資(OJT以外の研修等)にどの程度のお金を使っているかを国際比較したものである。日本の人材投資額は年々減少しており、GDP比率でみて諸外国の10分の1以下の水準にまで落ち込んでいる。また、右図は、「社外学習・自己啓発を行っているか」との質問に対して「行っていない」と答えた雇用者の割合を示している。日本は、半数近いビジネスパーソンが社外学習や自己啓発を行っていないと答えており、その割合は飛び抜けて高い。企業サイドは、従業員が大学院・大学など高等教育を受けることに対しては、「会社の業務に支障をきたすし、そもそも教育内容が実践的ではなく、会社の業務に役立たたない」と否定的な見方をしている。その影響もあって、雇用者の方も、「苦労して社会人大学院等の高等教育を受けても、会社が評価してくれない」と考える人が多く、社外学習・自己啓発に消極的である要因となっている。


しかし、社外学習・自己啓発に消極的なスタンスを続けていては、いつまでたっても、現在の仕事を超える新しい知識を身に付けて、新しい分野で生産性向上を実現することはできないのではないか。学者の実証分析では、人材投資を積極的に行うと企業の生産性にプラスの影響を与えるとの結果が得られている(注)。企業側、雇用者側双方が、人材投資が持つプラスの効果に着目して、前向きに取り組むことが生産性向上には不可欠である。


【図表3】人材投資に対する企業サイド・雇用者サイドのスタンス


ビジネスパーソンの気持ちに寄り添った成長戦略が必要では 経済を成長させるのは「人」である以上、そこで働くビジネスパーソンの気持ちに寄り添った成長戦略が必要である。日本経済の長期低迷を受けて、日本のビジネスパーソンには負け癖が染みついてきており、やる気や熱意は沈滞している、これをどのように打開して、高い士気・あふれる熱意を引き出すことができるのか、そして、積極的に人材投資を行い、従業員の能力を高めていけるのか、経営者・雇用者双方が知恵を出すことが求められている。これこそが、今後必要となる「成長戦略」ではないかと私は思う。 (注)森川正之『生産性 誤解と真実』(日本経済新聞出版、2018年)P85~87では、人材投資の累積額が2倍となると労働生産性が2.7%高まるとの結果が示されている。

 

Writer:肥後 雅博 東京大学大学院経済学研究科教授・前日本銀行京都支店長

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