
竹内美術店オーナーの独り言 3
何故美術品に高額な値段が付くのか
アートの世界では毎年のように数億、数十億円という落札がオークションで行われています。
2017年にはダ・ヴィンチの「救世主(サルヴァトール・ムンディ)」という作品が4億5030万ドルで落札され、オークションにおける史上最高額として大きく報じられました。
何故これほどの価値が付く美術品が生まれるのでしょうか。
色々な見方がありますが、私は「費用対効果が全く存在しないから」だと考えています。
世の中の多くのものは費用対効果が存在します。
費用対効果とは、文字通り「かけた費用に対しての効果」です。効果とは曖昧ですが、ここでは数値で表されるものに限定して話をします。
例えば車を買ったときには「移動時間の短縮」という効果が得られます。
この効果の度合いは具体的に「車を買ったことで1日1時間の移動時間を短縮できた」といった具合に具体的な数値で表すことが出来ます。
あるいは「新幹線で移動するよりも5,000円節約出来るようになった」といったように金銭的な数値で効果を評価することも出来ます。
このように時間やお金など具体的な数値で表される効果に対して、どれだけお金をかけてその効果を得たいか人は判断するのです。
ところが美術品にはこういった数値的効果がありません。
美術品を手にしたとしても、時間の短縮が出来たり、お金の節約が出来るといったことはないからです。
費用対効果が存在しないとなると、美術品に含まれる価値とはいったい何でしょうか。
それは、付加価値です。付加価値というのは先ほどの車の例のように明確な数値的効果で表されるものではありません。
多くの人は精神的な充足感を得るために美術品を購入するのであり、それは数値では表せない付加価値によって生み出されるものです。
ここで重要なのが、人によって感じる付加価値は大きく異なるということです。ある美術品を10億円で買いたい人もいれば、100万円でも買わない人がいるのは、人によって感じる付加価値が異なるからです。
これは特に美術品だけに限った話ではなく日常生活で多く目にすることです。
例えばラーメンを食べるときに、人によっては100円のインスタントラーメンで良いという人もいれば、1日10食限定の2,000円もするラーメンでないと駄目だという人もいます。
ラーメンを食べるときに数値的な効果を期待する人はいません。
ここで人による選択の違いが生じるのは、あくまで人によって感じる付加価値の違いによるものなのです。
更に美術品においては、その付加価値の幅が特に大きいという側面があります。例えば同じ作家の同じタイトルの作品でも、細部まで完璧に同一の作品はありません。作品のコンディションや作者の心情などによって、1点1点が異なる作品になるのです。
同一作品でもエディション番号が異なるだけで価格が変わることだってあります。
こういった1点1点が異なる作品であることから購入者の精神的充足を満たし、付加価値が生まれるのです。
人によって感じる付加価値が違う。これが美術品の魅力の一つと言えるでしょう。
昨今では特にコンテンポラリーアートにおいて、3,40代の比較的若いコレクターが世界中で増えていることもあって非常に価格が高額になっています。
次回は日本のコンテンポラリーアートの価格について書いていきたいと思います。
ご興味ある方はぜひともお読みください。
Writer:竹内 丘 竹内美術店オーナー